生きざま、逝きかた

 一週間前のことになりますが、ヨット界のスーパーレジェンド甲斐幸(かいみゆき)さんが、ヨットのレース中にお亡くなりになりました。享年61歳。

スナイプを操る甲斐さん(左)。Bulkhead Magazineより
スナイプを操る甲斐さん(左)。Bulkhead Magazineより

 日本のヨット界で甲斐さん知らない人はいないんじゃないかというほど、スーパーレジェンドな方です。一番有名なのは1979年にオランダのメンデブリックで開催された470級というクラスの世界大会で優勝したこと。日本のディンギー(小型のヨットのこと)セイラーが、海外の試合に出場するのも難しかったような時代に、日本人として初優勝を飾ったのです。

 

 私も高校生時代に、スナイプというヨットに乗っていたのですが、鳥取の境港で開催されるスナイプのレースに出場すると、ほぼ毎回甲斐さんが出場されていました。その当時の甲斐さんは既に神のような存在で、自分たち高校生は足元にも及ばない存在で、甲斐さんの周回遅れになったことも何度かあったように記憶しています。僕とクルーがヘトヘトになってハーバーに帰ってくると、既に甲斐さんは着替えて、にこやかに愛艇を洗ってらっしゃったのがとても印象に残っています。

 

 その甲斐さんが、江ノ島沖でレース中に亡くなった訳ですが、その逝き方がなんとも甲斐さんらしいのです。

 

 大好きなスナイプ(というクラス)に乗りながら、レース中に心臓麻痺を発症し、ヨットの上で倒れ、そのまま海中に転落して還らぬ人になったとのこと。

 

 まさに甲斐さんの生きざまを、最後まで見せつけてくれたような逝きかた。自分の大好きなヨットに人生の全てを捧げ、そして誰よりもヨットを愛したが故の逝き方。大変不謹慎な言い方かもしれませんが、ヨットの神様が与えてくれた最高のエンディングのように思えてなりません。

 

 

 建築界にも、とても印象的な生きざまと逝きかたをしたスーパーレジェンドがいます。

 

 それはルイス・カーン(Louis Isadore Kahn)。享年73歳。

 カーンも建築界では、知らない人はいないくらいのスーパーレジェンド。 

 

 有名になったのは50歳を過ぎてからと遅咲きですが、亡くなるまでの二十数年間に多くの名作を残し、今でも彼の信奉者は多く、私もその一人です。

 

 その彼が1974年にインドのアーメダバードから事務所に戻る途中のペンシルヴァニアの男性用トイレで心臓発作を起こして亡くなったのですが、彼のそのモジャモジャの頭髪、度の強い黒縁眼鏡、ヨレヨレに薄汚れたスーツという姿のせいか、浮浪者に間違われ、なんと3日間身元不明者の安置所に保管されていたとのこと。

 

 建築家であれば、それなりの姿格好をしていてもおかしくないのですが、あまりにも求道的であったため、自分のみなりに全く気を使わなかったルイス・カーン。プライベートでは、奥さんの他に2人の愛人、そしてそれぞれに息子一人と娘二人を持ったというエキセントリックなところもあったようですが、常人では及ばない強い意志を持って建築に打ち込み、大好きなインドからの帰途に、誰に看取られることもなく倒れ、駅の遺体安置所に眠ったというのは、まさに彼の生きざまを表した逝きかただと思います。

 

  甲斐さんとルイス・カーン、まったく接点のない二人ですが、私にとってはヨットと建築におけるスーパーレジェンドであり、生きざまそして逝きかたを見せてくれた大先輩。これからも、心のなかのヒーローであり続けることは間違いありません。

 

 最後になりますが、甲斐さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。